知財情報:商標不使用取消審判・社会通念上の同一って?

2024年05月02日

商標法では、登録された商標権を日本国内で3年以上使用してない場合、その商標登録が取り消されてしまう「不使用取消審判」という審判制度が設けられています。
使用している商標と登録された商標が一致している場合は、問題ありませんが、使用している商標と登録された商標が一致していないことは結構よくあるお話で、
どこまでの変更使用がOKなのか、線引きが難しいところです。
ご紹介する下記審決例は、英字と片仮名の2段併記で登録された商標権に対し、使用している商標が英字のみの一段表記であったケースで、いずれも「社会通念上同一」と認められ、商標権を維持できたケースになります。こういった審判に巻き込まれないよう出願時の商標の選定はとても重要です。
 

平成20年(行ケ)第10014号 審決取消請求「テディベア事件」

登録商標

使用商標

審決要旨(一部抜粋)

「・・・一般に,商標は,取引の実情,商品の性質その他様々な事情に応じて,変更を加えて使用する必要性が高く,そのような必要性に対応するために,同条の解釈規定が設けられた趣旨に照らすならば,登録商標と全く同一の商標に限定して解釈するのは相当でなく,
登録商標が,観念及び称呼を共通にする片仮名による表示と欧文字による表示を2段書きにした商標である場合に,欧文字部分のみからなる商標を使用したときも,特段の事情のない限りは,当該登録商標と社会通念上同一の商標が使用されたものと評価されるべきである。・・・本件商標は,「テディベアー」及び「TEDDYBEAR」の文字を上下二段に横書きしてなり,観念及び称呼を共通にする片仮名による表示と欧文字による表示を2段書きにした商標であるのに対し,使用商標は,本件商標の欧文字部分を,「T」と「B」以外の文字を小文字にして表示した点において相違があるものの,使用商標と本件商標は,観念及び称呼を共通にするから,社会通念上同一と評価することを妨げる特段の事情があるとは認められない。」

 

平成24年(行ケ)第10442号 審決取消請求「SAMURAI事件」

登録商標

使用商標

審決要旨(一部抜粋)

「・・・使用の対象となる商標は,登録商標と社会通念上同一と認められる商標も含むとされている。同規定は,通常の取引社会においては,常に登録商標と同一のものを使用するのではなく,当該商標を付する商品・役務の性質等に応じて,これに適宜変更を加えて使用するのが一般的であるという,実務上の要請に即したものである。本件について,同条1項の上記趣旨に照らして判断すると,本件商標は,「SAMURAI」と「サムライ」の文字を上下2段に表記したものであるのに対し,使用商標はいずれも,「SAMURAI」又は「Samurai」の文字を単独で表記したものである。また,本件商標は標準の活字体が使用され,使用商標は概ね標準の活字体又は筆記体が使用されていること等に照らすならば,使用商標は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するというべきである。・・・原告は,使用商標はいずれも,「SAMURAI」又は「サムライ」の文字を2段併記ではなく1段に表記され,相当にデザイン化された書体に変更され,また,「GENUINE JEANS」の文字が併記されており,本件商標と社会通念上同一とはいえないと主張する。しかし,使用商標は,様々な絵柄や「侍」「刃」「零」「極」などの文字や「GENUINE JEANS」の文字と併記されている例があるが,いずれも「SAMURAI」「Samurai」との欧文字が,概ね標準の書体により,明瞭に表示されており,社会通念上同一といえる範囲に含まれるものというべきであり,この点の原告の主張は採用の限りでない。また,原告は,使用商標は,「SAMURAI」ないし「サムライ」という社名と同一の文字をデザイン化した,多数の異なる標章が用いられており,被告商品の出所を示すものと認識されない態様で用いられていると主張する。しかし,使用商標は,工夫が施された図柄とともに使用されているが,前記のとおり,フラッシャーに「SAMURAI」「Samurai」との欧文字が,概ね標準の書体で表示されている使用状況に照らすならば,取引者,需要者は,商品の出所を示すための表示と認識することは明らかである。」

※登録商標及び使用商標の画像は、判決文から引用しました。